鞆の浦 ありそろう

Article|
分かる/分からないの間に生まれる「予感」

(category)
2023|Logo etc.
(project)
Tomonoura Arisorou
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東京・高円寺から広島・鞆の浦に移住した長田さんご夫婦が始めた「場づくり」。かつて日本有数の港町として栄えていた鞆の浦に、新しく生まれた「場」が「ありそろう」でした。古民家カフェ「鞆の浦 ありそろう」は、あらゆる架け橋となる場を目指して、考え、試し、変化をしながら進んでいます。

Design attitude

手ざわりを得るための手さぐり

Design concept

何かありそうな予感

あそこにいけば、何があるかはわからないけど、何かあるかも。そんな期待を持って来てほしいという思いを、ひらがなの「あ」を立ち込める湯気や煙のようなモチーフで描きました。シンボルは気づきの「あ」であり、「?」や「!」にもなり得ます。遠くの人に居場所を知らせる狼煙のように、ありそろうが鞆の浦や遠方の人の目的地になりますように。

Design items

Logo / Noren / Frag / Shop card

Article
デザインを終えて|
分かる/分からないの間に生まれる「予感」
話し手
神岡 真拓(ここち主宰/デザイナー|ここち)
聞き手
矢野仁穂(ブランドエディター|ここち)

移住をし、場をつくる。真拓さんも同じように都市から地方へ移住をしている共通点がありますよね。ありそろうという場をどのように捉えてロゴをデザインしたのでしょうか?

神岡

鞆の浦は町と海の距離が近く、古くから栄えた港町です。保存地区ということもあり、江戸時代の名残が各所に感じられる町。観光地という側面もあるからこそ「外から来る人」へのメッセージを意識しつつ、長田さんご夫婦が大切にしたいことをある種の実験のように試していく場が「ありそろう」なのだと、ヒアリングする中で理解していきました。

 

attitudeとして定めたのは「“手ざわり”感に必要な“手さぐり”感」という言葉でしたね。わたしから見ても、おふたりは常に自分たちの心のうちにあるものをどう表現していくのか、言葉や方法をさぐっているような印象を受けました。手ざわり、手さぐりといったキーワードはどこから着想を得たのでしょう?

神岡

ヒアリングの際に、温度を感じるような手ざわり感を大事にしたいという話を聞かせてもらいました。「手ざわり」という言葉はよく聞くけれど、それはつまりどういうことなのだろう?と改めて考えた結果「手さぐり」が大切だと辿り着いて。どんなことでも手さぐりで楽しみながら、自分だけの「手ざわり」を感じる(見つける)こと。そこにくらしを豊かにするヒントが隠れているのでは、と考えました。そこから2案提案し、おふたりと会話を重ねながらロゴが出来上がりました。

 

完成したロゴは、初回提案よりもPOPな印象が強くなっていますね。

神岡

ロゴの提案は、前述したattitudeをもとに異なる切り口で複数のデザイン案を作成するのですが、今回は提案した2案の間を目指そうという話になって。お店のロゴということで、“展開のしやすさ”を踏まえつつ、“分かりやすさ”という観点からもブラッシュアップをしていきました。

デザインの“分かりやすさ”を互いに議論できる関係性もいいですね。デザインに専門性を強く感じているが故に、違和感や不明点を持っていても、それこそがデザインなのかもしれないと思ってしまう方も多いような気がします。

神岡

そうですね。そもそもの姿勢として、デザインはパートナー(依頼主)と一緒につくるものだと思っています。便宜上、デザインの「提案」という言葉を使っていますが、感覚的には「共有」に近い意味合いで。提案&フィードバックの関係性ではなく、互いに同じ方向を目指した議論をする姿勢でのぞんでいるので、感想含め感じたことは伝えてもらえると嬉しいですね。

 

お互いが納得しながら、進めていく?

神岡

納得しながら進めることはもちろんですが、互いに意見を出し合ったうえでデザイナーとして判断もさせてもらいます。意見のとおりに手を動かすのではなく、その意図を汲み取ったうえで、どのように反映できるかを検証していくことが多いですね。曖昧さや分かりにくさもデザインには大切だと思っているのですが、それが突出してしまうと伝わらない。意見をもらうことで分かりやすさと斬新さのバランスを調整していくような感覚です。

 

今回のロゴも「あ」「狼煙」「!?」のどれにも見えるけど、どれかに限定することはできない。そのバランスがまさに現れていますね。

神岡

このロゴのデザインコンセプトは「何かありそうな予感」。先ほどの話にも繋がるけれど、今回のデザインコンセプトは特にモチーフが伝わらないと“予感”を感じさせることができないので、分かる/分からないのバランスは特にこだわってつくりました。

そのバランス感はどのように探っていくのでしょう?

神岡

とにかくたくさん試すことですね。今回でいうと「あ」に見えるか見えないかの塩梅は微調整を重ねました。デザインの世界は1から10まで順に10通り試せば網羅できる、というものではなく、1から10までの間に1.5や2.3など、もっというとミクロの世界まで選択肢が広がっている。その中でベストを探るには、やはりたくさん試すしかないと思っています。この作業こそデザインが纏う空気感をつくっていくと思うので、私としては好きな時間ですね。

神はやはり細部に宿るんですね。モチーフのバランス感が今回の推しポイントですか?

神岡

他にも、拡大すると綺麗な線ではなくジビジビとした線になっていたり、太さに緩急がついていたり。静的なロゴではありつつ、動きが見えることが好きなポイントですね。

なかなかマニアック(笑)ロゴの水色も印象的なのですが、どのように決まったのでしょうか?

神岡

最初は無彩色を提案していました。というのも、お店やロゴではなく、お客さんがそれぞれに見つける「何か」に色があるイメージをしていて。だからこそ、少し落ち着いたトーンを想定していたのですが、おふたりと話す中で「ありそろうは目的地になるといいのでは」と方向性が定まりはじめたことをきっかけに、テーマカラーとなるような印象に残る色を選ぶことにしました。

目的地になる場所?

神岡

鞆の浦という地域を目指してきてくれるのも嬉しいのですが、「鞆の浦のありそろうを目指そう」といった目的地となる場がいいんじゃないかと。まずはありそろうにきてもらってから、まちに繰り出していく。実は“目的地”というキーワードから“煙”というモチーフが誕生していたりもします。

そのためには目印になる色を、ということですね。

神岡

はい。完成したロゴを見ていて、なんだか雲みたいにも見えて。そこから青を連想していました。でも、まずはおふたりに聞いてみようかと。そうしたらまさかの青で。瀬戸内海の淡い青色というイメージをされていたという話を聞いて、鞆の浦の海と空をイメージした水色に決まりました。

私もありそろうに連れて行っていただきましたが、時間を重ねてきた建物と相まって、新旧が織りなす不思議な空気感がまさに長田さんご夫婦がつくる場にぴったりだと感じました。

神岡

歴史のある町の中で新しさが悪目立ちすることもなく、馴染んでくれてよかったなと思います。とはいえやはり目立つので(笑) ありそろうが目的地になるために、これから鞆の浦の目印として育っていってくれたら嬉しいです。

 

ここちが「愛着づくり」を唱えるのは、デザインに関わったプロジェクトが長く続いてほしいから。そのためにも、パートナーと同じ方向を見て、互いの想いや感性を重ね合わせることが大切なのだと考えています。インタビューの節々には神岡と長田さん夫妻との素敵な関係性を伺える場面も。デザイナーとして別の視点から同じものを考えていくことで、パートナーのつくりたいものをサポートしていくのが、ここちの役割なのかもしれません。

このしるしに根ざしたきもちA symbol born of this Attitude.