ポータリー

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大切なのは、暮らしに馴染む「さりげなさ」

(category)
2023|Logo etc.
(project)
Portalley
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2023年、長野県諏訪市に複合施設「ポータリー」が誕生しました。ポータリーは、昭和初期に建てられた4軒長屋(4軒の住居が連なる集合住宅)をリノベーションしたもの。ここちの母体である株式会社オンフがポータリー内に事務所を構える他、麻婆豆腐専門店やテキスタイルブランドのオープンアトリエなど、長い時間空き家だったこの場所に、再び灯がともりました。

Design attitude

あそぶようにくらす。くらすようにあそぶ。

Design concept

まちのぽとりから、くらしとあそびを照らす

まちのほとりにそっとある、くらしの港であり、観光の目じるし。諏訪のくらしとあそびをささやかに照らす場所であってほしいという願いを、カタカナの「ポ」をモチーフに、俯瞰してみた路地と灯台のシンボルで描きました。アクセントカラーであるウォーミーな黄色は、ポータリーが「まちをあたためる光」のような存在であることを示しています。

Design items

Logo / Leaflet / Floor map

Partner

株式会社すわエリアリノベーション社

Credit

Art Direction / Design|神岡 真拓

Article
デザインを終えて|
大切なのは、暮らしに馴染む「さりげなさ」
話し手
神岡 真拓(ここち主宰/デザイナー|ここち)
聞き手
矢野仁穂(ブランドエディター|ここち)

プロジェクトオーナーであるすわエリアリノベーション社(以下、「すわリノ」)の皆さんとはどのように出会ったのでしょうか?

神岡

諏訪に移住してきたのが、2022年の11月。すわリノが建物を取得したのも、ちょうどその時期でした。当時の諏訪地域にはグラフィックデザイナーが珍しかったこともあって、どうやらデザイナーが引っ越してきたらしいぞ、と声をかけていただきました。ありがたいご縁ですね。

すわリノは、ReBuilding Center JAPAN、諏訪信用金庫、サンケイの3社で立ち上げたまちづくり会社。既存建築を活用したリノベーションにより、移住者の人や地域の若者が新しくお店を始めやすくなる環境を整えている。

神岡

ポータリーは、すわリノが手がけた第一号物件。お話をいただいた時は同時に建物のコンセプトを組み立ている段階だったので、「ポータリー」というネーミング決めから参加しました。

“まちの「ぽ」とりから、くらしとあそびを照らす“というタグラインも、ポータリーをすごく端的に表していますよね。

神岡

ポータリーは、「ポート(港)」「アリー(路地)」を組み合わせた造語で。かつて諏訪は、至る所に運河が流れ、船での往来が盛んに行われていたそうなんです。ポータリーがある場所は、古い路地で大通りから少し奥まった場所にある。街に馴染みながらも、人や情報が集まる港のような場所にしたいと、この名前に決定した経緯があります。ポータリーという耳馴染みのいいこの名前と一緒に、そこに込めた想いが伝わるようなタグラインがあるといいかもしれない。そう思って、デザインを提案するときに一緒に言葉を添えてみたりして。ロゴが使われていくうえで、使う人/見る人にとってなるべく自然に伝わるようにしていくことも、デザイナーの役割だと思っています。

デザインやタグラインはどこから発想を得ていくのでしょう?

神岡

すわリノの皆さんからは、たくさんの言葉を伝えてもらいました。「観光協会が行うものとは違う、観光の拠点になったらいいな」「街をつくる人がふらっと遊びに来て相談できるような場所」「仕事と生活と遊びが混ざるような」といったポータリーという場所についてはもちろん、そもそも当時の僕は諏訪に引っ越してきたばかりだったので、諏訪についてや、すわリノについてなど、前提のこともたくさん教えてもらいましたね。ロゴを作るうえで、まずはみなさんが見ている世界に近づくことが大切だなと思って。

みている世界に近づく?

神岡

なにごとも、構造はマトリョーシカだと思うんです。ポータリーだけを見てロゴを考えていても、想像が広がらなくて。「諏訪」にある「すわリノ」がつくる「ポータリー」のロゴなんですよね。だから、諏訪についても知りたいし、すわリノについても知りたい。これらを知ることで、腹に据える部分を汲み取ろうとしているのかもしれません。

アイデアを発散するために、ブレないものから探す?

神岡

そうですね、ロゴをつくるうえでの根幹の部分というか。すわリノのみなさんがポータリーに込める想いの根っこの部分を掴みたいと思っていました。そこさえ掴めてしまえば、デザインを擦り合わせていくことができる気がしたんです。逆にそこが掴めていないことには、小手先のデザインスキルでは納得のいくものには辿り着けない。

mtgに出席していて度々思うんですけど、脱線…というか雑談のようにも思える会話も多いですよね。

神岡

確かに、直接ど真ん中で依頼内容について聞く時間はそんなに長くないかもしれない。周辺の、もはや互いの近況について話したりもします。同席してくれているふたり※も楽しんでくれていると思いつつ、打ち合わせの時間は限られているから不安だよね(笑)でも、根幹さえ掴めてしまえば、潔くいられる。デザインをする過程で迫られるいくつもの取捨選択に自分なりの軸が通る気がするんです。(※ここちの打ち合わせは基本的に神岡のほかデザイナーの武藤、ブランドエディターの矢野も参加している)

今回のプロジェクトでは、それが「くらしとあそび」だった?

神岡

そう解釈しました。提案の時に「あそぶようにくらす。くらすようにあそぶ」とロゴに込めた “きもち”(ここちではattitudeと呼んでいます)を書いたのですが、これがまさにポータリーが目指すことだと思いました。諏訪に住む人たちの暮らしが、遊びのように楽しくなる。諏訪に遊びにきた人たちは、暮らすように街に溶け込む。だからこそ、そっとそこにある「さりげなさ」を忘れないようにデザインしましたね。暮らしの中で毎日見るのに、それに飽きてしまうのは切ない。くどくないほうが、暮らしに馴染むような気がします。

カタカナの「ポ」をモチーフに、キャッチーではあるけれどやさしい。そんな印象を持ちました。

神岡

狙い通りなので嬉しいです。ポータリーは、リアルな「場所」。実は、実際にきた人にしかわからないようなちょっとした遊び心も忍ばせています。ぜひ、このロゴとポータリーを含めた街並みを見比べてみてほしいですね。

まずは、プロジェクトに関わっている人たちと同じ世界を見てみる。ロゴをデザインするうえで出発点となった「くらし」「あそび」というキーワードや、「さりげなさ」といったロゴに持たせたい印象はすべて、同じ世界を見ようとした過程を経て気づいたことなのだと思います。同じ世界を見ることができると、受発注の関係性ではなく同じチームのデザイン担当者になれる。ここちは、そんな存在を目指しているのだと改めて感じるインタビューでした。

このしるしに根ざしたきもちA symbol born of this Attitude.