麻婆食堂どんどん

Article|
長く続けるために、距離感をデザインする

(category)
2024|Logo etc.
(project)
Mabo-shokudo DONDON
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長野県諏訪市に2024年にオープンしたのが「麻婆食堂どんどん」。店主の千葉さん(通称どんさん)が7年勤めた会社を辞め、得意料理の麻婆豆腐を相棒に初めての飲食店を始めました。どんさんの人柄とまた食べたくなるオリジナルな麻婆豆腐に、今日もたくさんのファンがうまれています。

Design attitude

ちょうどいい距離が居心地を守る

Design concept

「いらっしゃい、いつものね。」

どんさんの人柄つくる雰囲気が、程よい会話をうむ。その距離感をネガティブスペースで「ど」を描くことで表現しました。何やら会話が聞こえてきそうです。右か左、どっちがどんさん?

Design items

Logo / Noren / Shopcard / Signboard etc.

Partner

麻婆食堂どんどん

Credit

Art Direction|神岡 真拓

Design|武藤 亜里紗

Brand Edit|矢野 仁穂

Award

日本タイポグラフィー年鑑2025 ロゴタイプ・シンボルマーク部門 入選

Article
デザインを終えて|
長く続けるために、距離感をデザインする
話し手
千葉 夏生(麻婆食堂どんどん店主)
話し手
神岡 真拓(ここち主宰/デザイナー|ここち)
話し手
武藤 亜里紗(デザイナー|ここち)
聞き手
矢野 仁穂(ブランドエディター|ここち)

今日はデザイナーの神岡と武藤、そしてパートナーである“どんさん”こと千葉さんの3人にロゴ制作についてお話を聞かせてもらえたらと思います。まずはどんさん、最近の麻婆食堂はどんな様子ですか?

千葉

オープンして8ヶ月、まだそんなもんなのか、と不思議な感覚ですね。もっと経っていてもいいような。そういえば、こないだスーパーの人に「麻婆豆腐のお店されている方ですよね」と話しかけられたよ。

神岡

まちに馴染んできたということかもしれないですね。

千葉

そうだね、嬉しいことだよね。

ロゴの制作は今から約1年前。率直に聞いてしまいますが、ここちとの取り組みはいかがでしたか?

千葉

楽しかったな!小学生みたいな感想になってしまうけど、やっぱり楽しかった。飲食店を始めることを決めたのが去年の10月頃だったから、そのあとすぐに真拓くん個人にお願いしたんだよね。そこから“ここち”というチームでロゴの制作をさせてほしいという話を受けて。

神岡

ちょうど亜里紗が諏訪に引っ越してきたタイミングだったこともあり、これはみんなで取り組む流れなんだなと思ったんです。僕の制作スタイルを変えるタイミングというか。チームで取り組むことで、いいものがつくれるはずだと勝手に確信できたというか。

初回でA・B・Cの3案をご提出したと思います。その中には最終確定したロゴの原案も含まれていますが、ここちの提案をどんさんはどのように受け止めてくれたのでしょうか?

千葉

初稿と聞いていたので、ラフ案のようなものを見ながら一緒に方向性を固めていく段階だと思っていたの。そしたらとんでもない量の資料があって。その中身も含めて、チームで考えてもらう意味を実感したなぁ。

武藤

資料を片面ずつに印刷して、紙芝居のようにめくりながら説明したよね。

神岡

そうそう。かなりの厚みがあった。

千葉

すぐにデザイン案を見せてもらうわけでなく、どういうふうに辿り着いたのかを説明してもらったんだよね。提案というと松竹梅的なランクの違いを揃えるものもあるんだろうけど、ここちの資料は切り口の違いで複数の案を出してくれているのが伝わってきたかな。

神岡

3案とも全て“どんさんをビジュアライズする”というのが共通のモチーフなんだけど、“どんさんのどの部分をクローズアップするか”をいろんな方向から考えてみたんです。

千葉

A案だったグーサインをモチーフにしたものも好きだったけど、長く続けることを考えたら今のロゴ(B案)がしっくりきて、選んだの。

神岡

前提としてどんさんが持つキャラクター性がお店に現れるんだろうなと思って。だからどんさんをビジュアライズしようと思ったんだけど、A案はその中でも“周りから見た”どんさんだったな。

武藤

うん。ストレートに表現するとこうなるんじゃないかって、Aの方向性を一番最初に定めたんだよね。

千葉

そうだったんだ。Aは男性的な感じが前面に出ている気もするよね。“流行りのかっこいい中華屋”っぽい雰囲気もあって。でも僕自身の性格的にはマッチョな方ではないから、Bがしっくりきたのかもしれない。

神岡

Bの方が少し繊細さがある気がします。これは誰にしも言えることだろうけど、きっと周りから見えているどんさんと、どんさん自身が認識している自己はイコールではない気がしていて。表には見せないけど、どんさんの一部であるものをちゃんと汲み取りたいと考えていました。

ロゴの完成まで、どんさんにも一緒にみてもらう機会が多かったように思います。

神岡

同じ地域に住む者同士の距離感だからこその進め方ができたよね。よくオフィスに遊びにきてくれたりして、ディティールまで一緒に考えていけたような気がします。

千葉

そうだね。ここちが考えてくれたものをみて、自分の意見を伝えて…の繰り返しで。ブラッシュアップの過程でロゴの雰囲気がどんどん変化していったんだけど、その中で違和感を伝えた時もあったよね。

武藤

いろんなことを試してみたんです。ブラッシュアップの方向性もいくつか検討できるなと思って。どんさんが違和感を伝えてくれたのは、リズム感をつけたらどうなるだろうかと試した時ですよね。

千葉

そうそう。リズム感のあるロゴを見て、わいわいしすぎているなと違和感を感じたんだよね。完成したロゴは全体的に少し角張っているんだけど、ソリッドな雰囲気が残っているほうが僕にはしっくりきていて。でも初回提案のFBではそのことに気がつけていなかった。いろんな方向性を探ってもらいながら、細かい部分まで一緒に考えることができたから、少しずつ自分の大切にしたいポイントが見えてきたような気がする。

どんさんが感じる違和感を逃さなかったんですね。

千葉

そうだね、確かに。お店の準備を進めていく途中で、自分が納得のいかないことがないようにしようと思ったんだよね。俺自身がたくさんの時間を過ごす場所だからこそ、自分が気持ちよく、美しいと思える場所をつくりたいなって。それでいいんだよなって思ったの。

神岡

ずっと、お店とどんさんの「距離感」を考えていたのかもしれませんね。“きもち”としてきみちゃんが書いていたように、やっぱりどんさん自身の居心地がいいことが大切だと思うんです。

お店のオープンから8ヶ月。今の「麻婆食堂どんどん」はどうですか?

千葉

思い描いていたようなイメージに近いかも。お客さんは思い思いに過ごしてくれている気がするな。1人でくる女性も多かったり。だからこそ、“うちわノリ”はできるだけないように心掛けているかな。でも知り合いが来てくれると嬉しいし、楽しくなっちゃう時もあって。そんな時はカウンターの人にも一言声をかけてみたりして。そしたら意外と中に入ってきてくれる人もいるんだよね。

武藤

どんさんを介してお客さん同士のお喋りが始まることもありますよね。ロゴで表現したかった光景がまさに目の前で起きているような気がしています。どんさんとお客さんが近すぎないんだけど「いつものね」と言える距離感で、互いに認識はしあっている、みたいな。

千葉

やっぱり自分自身がもう一回行こうって思えるようなお店でありたいよね。緊張感はなくてもいいけど、なんでもありなわけではないよって。

武藤

その空気感があるから、どんな時でも行こうと思えるのかもしれないな。お昼時のにぎやかな時でも夕方のゆっくりした時でも、お店の流れによっていろんな居心地の良さを感じている気がする。

神岡

ここからは、はみ出してはいけないというような暗黙の了解が、居心地を守る距離感なのかもね。

これからの「麻婆食堂どんどん」はどうなっていくんでしょう?

千葉

欲張りすぎず、自分のペースで進んでいけるといいな。一周年の記念品の制作も始まったしね。特別感のあるお店のグッズも、ひとつひとつ理由を考えながら作っていけたらいいな。

神岡

そこにあるべきものをつくる、ということですかね。

千葉

うん。やっぱり「売れるからつくる」という考え方はあんまりしっくりこないから。グッズもお店を楽しむひとつのあり方だと思うし、麻婆食堂どんどんの一部として考えているかな。

今回もここちと一緒に制作するんですよね、ありがとうございます!

千葉

実は別の方にロゴを託すことも考えたんだけどね。それも楽しそうだなって。でも今じゃ無いような気がして。

武藤

嬉しいね。引き続き声をかけてもらえて、継続的に関われるって。

神岡

うん、いろんな選択肢があっていいんだけどね。そこに僕らも入れてもらえていることが嬉しいです。

千葉

まさに、自分のペースで急ぎすぎなくていいかなって。いつかは誰かにロゴを解釈してもらうこともあると思うけど、今回はここちと。改めて、よろしくお願いします!

神岡・武藤

こちらこそ、よろしくお願いします!

千葉

楽しみだね。

ここちでは、どんさんのようになにかを始めるタイミングでのご相談をいただくことも多いです。だからこそ、始まったあとに続く未来を考える。続けていくために必要なものを考える。その答えが、今回は「距離感のデザイン」でした。ここちは、シンボルデザインスタジオと謳っていますが、シンボルに含まれるのはロゴだけではないと考えています。ロゴだけでなく、その過程で見つけ出した言葉もシンボルの一部。だから、たくさんのことを共有せずにはいられないのかもしれません。どんさんにとって、これらのシンボルが立ち返る場所になれているような気がして、とても嬉しかったです。

 

このしるしに根ざしたきもちA symbol born of this Attitude.